介護食の宅配で知った高齢の方のニーズ

勤めていた会社を早期退職して、介護食の宅配サービスの会社を設立することにしました。夫が起業に賛成してくれたことや子どもたちが成人して独り立ちしたことで、「自分のやりたかったことを、後悔しないように今のうちにやってみよう」と踏ん切りがついたからです。

起業してから3年、事業は思った以上に順調にすすみ、地域の主婦や団地の理事会などから支持をいただいて、パート・アルバイトの人員も過不足なく雇い入れることができるようになりました。同業者に聞いてみると、高齢化で需要やニーズが多いこの業界でも、私のように順風満帆に上手くいくケースは少ないのだそうです。

介護食の宅配で施設やご自宅を伺っていると、そこには宅配以外に実に多くの要望があることに気づきます。たとえば独居の方の安否確認を宅配のついでにやってくれないか、後見人を探しているのだけれど、役所の手続きを手伝ってくれないかなどです。意外にも「病気で脱毛してしまったけれど、ウィッグの購入はどうすればできるか」という相談を受けたことが、これまでに13件ありました。

最初はお手伝いをするつもりで、ウィッグ商品をネットで調べてプリントにして渡していましたが、お年寄りの中には、電話を使って申し込んでも自分の要望をうまく伝えられない方もいます。後見人や役所の手続きも同じことで、自分1人ではやりきれないのが高齢者の実際です。

品質と価格の見極めなど、高齢者には難題

そのような経緯があって、私はいつのまにか、普通のウィッグや医療用ウィッグの概要・価格などを詳しく調べるようになり、ご高齢の方に代わって連絡や申込みなどを代行するようになっていました。もちろん手数料などはいただいていません。

お弁当のお届けのついでにお聞きした要望をお手伝いするという範囲です。しかしそうやってウィッグを調べていると、たとえば医療用ウィッグでも、販売価格がマチマチでかなりの開きがあることに気づきました。そこである専門の会社に電話をして、その違いはなぜ生まれているのかを聞いてみました。

連絡を入れたのはアンベリールという会社で、製品のブランド名はシルフィ、価格帯は2万円台後半(バリュー)から、4万7,000円台、8万1,000円台と3つのグレードを揃えています。価格で他社の医療用ウィッグと比較した場合にはほぼ中間からやや安い部類に入る設定です。高いものでは10数万〜20万円を超えるものもあります。

医療用のウィッグの価格にはなぜこうも開きがあるのか聞いてみると、第1に流通コストの違いがあると言っていました。問い合わせした会社では、流通から製作まで、省けるものは徹底して省いて内製化し、逆に外注を使うべきところにはネットワークを充実させて連携を密にすることで、相互に、安価でも利益の出る仕組みをつくっていると教えてくれました。また有名ブランド品のように、テレビCMなどの広告宣伝費をかけないため、その費用などを削減して研究開発に資金を回せるとも語ってくれました。

よくあるコスト削減の仕方ではありますが、品質とは関係のないところにコストが使われる会社と、そうではなくて製品の品質や機能にコストを集中させる会社とでは、こんなに価格が違ってくるものかと改めて実感しました。医療用ウィッグに限らず、モノやサービスの品質と価格をどこで見極めどう判断するのか、そんなむずかしいことを高齢者に強いるのは不可能です。その日以来、ますますお手伝いしなければとの思いを強くした次第です。加速していきます。