医療用ウィッグで赤字は出していないのに事業売却

2017年の初めごろにMBO(事業売却)を実施したウィッグ大手の会社が上場廃止になったというニュースは、業界関係者だけではなく、国内外のウィッグユーザーにも大きな衝撃を与えました。MBOとは Management Buy Out(マネジメント・バイ・アウト)の頭文字をとった略で、「経営陣による事業の売却」という意味です。

同社が属するその市場の規模は約1400億円とも言われてきましたが、男性・女性双方のウィッグの売上高をみると、現在でも緩やかに実績は拡大していて、「なぜ事業を切り売りしなければならないのか」という声も一部からは漏れ聞こえていました。緩やかでも成長を支え市場を引っ張ってきたのは女性のユーザーたち。

過去5年間ではとくに女性向けウィッグの成長が著しく、その率も規模も男性向けのウィッグを大きく上回ってきました。一般には上場廃止というと倒産同然に受け取られがちですが、同社は決して業績が大きく低下したわけでも、不良品や低品質のものを販売していたわけでもありません。

むしろ品質は国内トップクラスの老舗で、業界に先駆けて病気で髪を無くした子どもたちへのウィッグの無償提供を行なうなど、社会貢献度の高さでも他社にはないほどの評価を集めてきました。時代の変化で医療用のウィッグと言えどもユーザーの価値観が変わり、「医療用ウィッグ=緻密=職人の手作業=高価格・高級」という流れが消えてしまったことに大きな要因があるとみられています。

高級・高品質なだけでは残れない医療用のウィッグ

実はこのような現象はウィッグ業界に限らず、すでに多くの業界で頻発しています。過去には日本の商業史を作ってきたデパートが統廃合し、いまでも経営存続の分岐点に立たされています。家電大手は事業を縮小し、海外の企業に自社の事業をMBOしています。エネルギー事業に乗り出して失敗した名門企業は、虎の子と言われる最後の事業を売却しようとしています。

医療用ウィッグの老舗・大手が不振な理由

  • 高品質で高機能が当たり前の医療用ウィッグ。しかし高級路線で高価格を欲するユーザーは少なくなってきた。
  • 近年はウィッグ業界も新規参入の企業が増え競争が激化。小さなパイ(市場)の奪い合いが継続していた。
  • 低価格路線のウィッグメーカー、医療用ウィッグメーカーが増え、需要の多極化が起きている。使い捨て4,500円のウィッグが好評。
  • とくに医療用ウィッグについてはユーザーの知識・経験値が増え、メーカーの理論や理屈が立ち行かなくなってきた。
  • 所有からレンタルの時代に入っていることも経営戦略に影を落とした要因の1つ。“所有に30万円以上するウィッグ”は現代に不似合い。

冒頭にお話しした大手ウィッグメーカーのMBO(事業売却)は、倒産とはまったく異なるもので、意味合いとしては真逆のこと。自社に体力が残っているうちに事業の一部を他社に売り渡して、自分の会社はその売却益を元手に、ウィッグ事業以外の事業に力を集中させようというものです。健全なよくある経営戦略です。