押し切られるように試着・購入した医療用ウィッグ

「その帽子じゃ、夏は暑くありませんか?」 そんなふうに声をかけてきてくれたのは、診察室の待合で何度か一緒になったことのある女性の患者さんでした。

私と同じくらいの年頃で、ほっそりとしたキレイな顔立ちの方でした。「抗がん剤治療、どうでした?辛かったでしょ」、そんな話からはじまって、その日から院内の喫茶室でお茶するようになりました。彼女に年齢を聞くと私の予想通り40才代の半ば。「その若さで癌になって気の毒」という言葉は私にも良くかけられましたが、改めてその人を見ていると、私も同じような声をかけたくなります。

専業主婦ではなく、読者モデルをやって、フラワーアレンジメントの教室も開いているとのこと。第一印象で、どこかに洗練された感じがあったのはそんなライフスタイルからなのでしょう。

人には相性というものがあります。デコボココンビでもお互いに惹かれあう何かがあります。初対面からお茶をするようになって、私たちは自宅に戻ってもお互いの家を行き来するようになっていました。

「あのね、その帽子だけど、それを使うなら医療用ウィッグに買い替えたらどう? 価格は2万円台だから、医療用帽子の代用品だと思えば高くない値段よ。帽子と違って服にも合わせやすいし、季節に関係ないし、どこにでも被っていけるし」と、前々からすすめられていたことを、その日はかなり強力にすすめられました。

そこまですすめてくれるならと、押し切られるように試着・購入したのが「シルフィ」という医療用ウィッグでした。

医療用帽子の代わり、価格も安いから損はない

最初はシルフィの関係者かしらとも思いましたが、彼女の言動からはそのような感じはまったくありませんでした。

それよりも自分の抗がん剤治療の体験や治療後のケア、自宅での過ごし方、身体に負担をかけない自分で発案したという「ゆるゆる運動」の話など、私にとっては新鮮でためになることばかりでした。私は彼女と同年代でも2つ年下。知識でも美貌でも勝てなくて悔しいけれど、彼女のいう事なら騙されてもいいかという感覚でお付き合いしていました。

「医療用帽子の代わり、価格も安いから損はない」、「私もシルフィ1本で、3種類のウィッグをもっているんだから」と、自分がシルフィを被って、読者モデルの仕事をしたときの雑誌の写真まで見せてくれました。自然に見えるから顔のアップでなければ、現場でもそのままOKをもらえるのだそうです。

いま私の頭にはそのシルフィが載っています。結論的に言うと彼女の言っていた心地よさやフィット感、蒸れないこと、ズレないこと、そして軽いことは事実でした。安い価格だから騙されたつもりと思っていましたが、後悔しない、こんな出会いもあるんだなと思っています。

私と彼女は、姉と妹の関係のようで調子よくいろいろ甘えさせていただいています。シルフィを取り持ってくれた不思議な縁に感謝しています。